2009年9月22日火曜日

ゼロから学ぶ超ひも理論 を読みました。

竹内薫 著ゼロから学ぶ超ひも理論 (ゼロから学ぶシリーズ)(2007.12発行)を読みました。

この本は、狙いは「難しい教科書への橋渡し」とあり、先日読んだ、イラスト「超ひも理論」のように数式を使わずトピックを紹介した概説本とは異なり、イメージを伝える助けに数式を用いているものの、一般初心者向けに超ひも理論を説明した本です。

構成は、
最初の章は超ひも理論の概説となっていて、2章でひも理論に入る準備としての、ローレンツ変換と質量エネルギー式(相対性理論)、不確定性原理の適用(量子化)、およびプランク長さについて、3章でひも理論の導出過程を、4章で超対称性を考慮した超ひも理論について、5章ではDブレーンとひもの関わりで説明する素粒子のモデルやブラックホールとの関係などが説明されています。

超ひも理論について、基礎となる相対論や量子論との関わりや導出過程の説明には、簡略化した式を用いて説明されていて、文章だけよりも正確なイメージがつかめるような気がするし、対話形式での補足説明などもあり、丁寧さと正確さを兼ね備えた説明となっているように思うものの、交換関係の演算処理や、特に4章での超対称性の部分や調和振動子の量子化などはイメージがつかめなくて、良くわかりませんでした。
しかし、くりこみの話や、ひも理論から超ひも理論、Dブレーンの導入により実際の素粒子との関連付けがされることなどは、よりイメージが深まり理解が深まったような気がするので、十分読む価値はあったと思います。

内容についてもう少し詳しく書くと、
1章では、物質の成り立ちを点ではなくひもとして捉え、その挙動が物理現象を表すように特殊相対性理論や量子論と整合をとることで出来ることが説明され、
対称性と物理量の対応(ネーターの定理)により重力など様々な物理量がひもから導出できることや、ひもの境界条件がむしろ重要でDブレーンと呼ばれる平面もにひもがつながったような状態により電子やクォークが表現されること、超ひも理論はホログラフィー原理で次元が落ちたものがクォークを記述する量子色力学と対応すること、力を伝えるボソンがDブレーンから出て戻るひもで、物質の素であるフェルミオンがDブレーン同士をひもでつないだ状態であることなど、超ひも理論により力の統一的枠組みが可能になりさまざま現象が説明できることや、
一方で、超ひも理論が様々な可能性を予測してしまうため、これまでわかっている現象を説明できるものの、実験的に検証可能な予測ができていないため、検証された理論とはいえないことや、可能性としては無限の閉口宇宙を予測してしまうことなどの課題、
さらに、最近は重力理論を量子化する方向から導かれるループ量子重力理論が提唱され、ブラックホールのホーキング放射などの問題について結論が一致していることなどが紹介されています。
2章では、
まず光速不変とローレンツ変換で表される時空間の現象(特殊相対性理論)について、時空図を用いて観測者ごとに時間の進み方が異なり観測者ごとに同時が異なることや、質量とエネルギーの等価などが説明され、
次に不確定性原理と量子化を当てはめることの数学的表現や、ひもに当てはめたとき測定精度に最小値が存在すること、
さらにひもの時空図上での振舞いやひもの境界条件となるDブレーンについて説明され、Dブレーンとひもとの関係性から様々なものが表現されることが解説されています。
続く3章は、
まず、ひもの方程式を時空間上で表現して、振動をフーリエ展開して分解することで、ひもの挙動が記述され、開いたひもの場合にエネルギー保存則を満たす境界条件としてDブレーンが説明されています。
そして、不確定性を導入して量子化し、振動部分についての交換関係を表す生成演算子と消滅演算子が導出され、ひもの解をエネルギーと質量の関係式に適用して、くりこみ処理により無限級数の解を求め、相対性理論と整合性をとると、時空の次元が26次元となることが説明されています。
そして4章が、超ひも理論の説明部分で、最初に複素解析の解析接続という概念でオーバーラップしている関数系は同じ関数となることから、級数展開の定義域によって関数を変えることで無限を有限にくりこむことができ、ひもの質量とエネルギーの式に用いられるζ関数のくりこみについて説明され、次に、フェルミオンに掛けるとボソンになりボソンに掛けるとフェルミオンになる演算子Qを考え、この演算操作が超対称性を表していて、ひも理論にフェルミオンの状態を対応させるために超対称性を組み込むことで、5つの10次元の超ひも理論ができるようです。
5章はDブレーンにより、実際の世界を構成している素粒子モデルを説明するもので、Dブレーンの交差する付近に素粒子が存在すること、10次元のうちの6次元が極小のトーラス状にまとめられていること、2つのD6ブレーンが交差することで、交差点が3箇所生まれ3世代の素粒子が生じていることなど、Dブレーンとそれにつながるひもから素粒子の生成が説明され、超ひもがブラックホールの性質を持つこと、超ひもの状態量の取りうる範囲から算出したエントロピーが熱力学的に算出したブラックホールのエントロピーと一致することなどが説明されています。

巻末には、さらに正確にあるいは詳しく知る人のために、相対論や量子力学、素粒子論、超ひも理論とDブレーン、などに関する本が紹介されているので、参考になるのではないかと思います。

2009年9月11日金曜日

イラスト「超ひも理論」 を読んだ。

イラスト「超ひも」理論-図解でいっきにわかる!宇宙論の最先端(2002.9)発行を読みました。

すべてのものの基本が「ひも」から出来ているといった「超ひも理論」は、量子論や宇宙論に関わっているし、昨年関連する内容で日本人がノーベル賞をもらったこともあって、以前にも簡単な入門書を読んだり、雑誌やドキュメンタリー番組などで取り上げられたのを見聞きしたこともあったものの、改めてどんなものだったかと思いながらも調べることなくそのままになっていました。先日、何か本でも借りようと思って図書館にいって、ひも理論のことを思い出してもう少し中身を知りたいと思い、関連の入門書などをいくつか借りることにしました。この本は借りてきた本のなかでも超入門といった感じの本です。

この本の構成は、
見開きで1トピックになっていて、どの見開きもページの半分以上はイラストでイメージが表現されていて、下1/3くらいに文章で超ひも理論やそれに関係する話題について説明(紹介)されています。

入門書とはいえ、内容は非常に多岐にわたっていて、
超ひも理論の誕生まで、素粒子論、宇宙論、超ひも理論で宇宙の謎を読み解く、といった4つPartにわかれています。
最初のPartは、超ひも理論とはどんな感じのものかが説明され、
超ひも理論にいたるまでに発見された量子力学が説明する物理学現象(光の波と粒、光電効果、不確定性原理、トンネル効果など)や相対性理論について、
次に、物質を構成する素粒子をつくるクォークやレプトン、バリオンや中間子、さらに、4つの力の概略や、ゲージ粒子に、力の統一論を目指している、現在の標準理論モデルや、理論の状況について、
Part3では、宇宙論として、宇宙の構造や星の一生、定常宇宙論やビッグバン理論、平坦性問題やインフレーション理論を、
最後のPart4では、ダークマターやダークエネルギー、現在膨張が加速しているという第2のインフレーションや無限の宇宙生成、26次元のひも理論に超対称性を取り入れた10次元の超ひも理論やコンパクト化された次元、超ひも理論を用いた宇宙創生期やブラックホール蒸発時の様子、さらに高次元の膜を用いて超ひも理論を統合するM理論まで、

といったように、量子論や宇宙論の主要なトピックが網羅されています。

数式はなくイラストを用いて説明されているので、素粒子とか宇宙とかに興味はあるけど、数学は苦手だし、難しい話は良くわからないといって敬遠してしまいそうな人にも、読み物として楽しめるのではないかと思います。

ただ、トピックスを集めているだけという感じになってしまうのも仕方ないところだとは思いますが、個人的な感想としては、超ひも理論から考える宇宙の始まりやM理論など知らないトピックスもありましたが、これまでに読んだ宇宙論の本などで聞きかじったことを改めて確認したものの、知らないトピックスはそういうものがあるというのわかっただけという感じです。

とはいえ、
この本は、なぜそうなるのか、とか、どのように理論的に導かれ証明されたかということは置いといて、物質や宇宙の成り立ちに関連して、どんなことになっているか、どんな不思議な点があり、物理学者の間でどのように考えられているかといった、キーワードや様々なトピックを知るにはいい本だと思います。

出版社が宝島社で、いろんな分野をざっと捉えるような本や雑誌などを多数出している宝島社らしい本とも思いました。

2009年9月5日土曜日

音楽は自由にする を読んだ。

特に理由これといった理由はないのですが、前回まで月に何回かは観に行った展覧会などの感想と何冊かの読んだ本の感想を書いていたのに、今回は、4ヶ月以上という間隔が空いてしまい、久しぶりのブログ書きです。

坂本龍一著、音楽は自由にする(2009.2発行)を読みました。

内容は、雑誌「エンジン」の企画に基づいていて、編集長によるインタビューで坂本龍一が自ら人生を振り返った、2年以上にわたる27回の連載をまとめたものです。
幼稚園の頃から始まり、育った環境やその頃の様子、さらに、現在につながる出来事や最近のことまで、順を追って書かれています。
人との関わりや出来事への関心などについて、実際には気難しそうな人のようなので、いろいろもめたこともあっただろうと思われるようなことも、淡々と書かれていて、最後には年表まで載せてある坂本龍一の自分史です。
音楽のバックボーンをしっかりと身に付ける一方、ポップの領域でも活躍し、最近では環境関連の活動など多方面で活躍するアーティストの自分史として、そういうものに興味ある人には面白い本なのではないかと思いました。

全体としては、自伝なので、淡々と様々な記憶に残っている出来事が書かれていて、特に訴えかけてきたり、いろいろと考えることを促すようなも感じではない本だと思いますが、
坂本龍一の活動や交友範囲が広がっていく80年代の部分は、その時代のアーティストや文化人との関わりで出てくる人に、私もよく読んだ思想家や作家が出てきて、20世紀の芸術運動ともいえる芸術自身や概念に対する見直しなどといった興味のある部分が重なって、そのような分野の人と関わることは私にはなかったので、うらやましい気もしました。
また、後半では、ニューヨークで9.11テロに遭遇した時のことなどは、かなり極端な印象を受ける部分もありましたが、恐怖がまさに身近におそい、その後もどうなるかわからないといった緊迫感に包まれたときの人の状況について書かれていて、出来事が人に感情や考えに与える影響について、ニュースなどで見聞きしたときのものとは別の見方というか感覚が伝わってくる感じがしました。

坂本龍一はこんな自分史を出すようなことはしたがらないように思っていたので、最初に、あまり気が進まないと書いてありましたが、57才という年齢にもなって、丸くなったように思いました。