2008年9月28日日曜日

脳科学のテーブルを読んだ

日本神経回路学会 監修、脳科学のテーブル (学術選書 34)(2008.3発行)、を読んだ。

タイトルと裏表紙にある説明から、脳科学の過去から現在、未来について、研究をリードした重鎮と第一線の研究者が表(テーブル)にまとめるような形で整理して語るのかと思ったら、タイトルのテーブルは文字通り、机の意味で、脳科学の発展をリードしてきた二人の重鎮それぞれと、現在の一線の研究者が座卓を囲んで談笑している雰囲気を伝えているものだった。

内容は、第1部で神経生理学研究を推進してきた外山敬介氏を囲んで、脳神経科学研究の歴史と現状、今後の可能性についての対談、第2部でニューラルネットワークの理論研究をリードしてきた甘利俊一氏を囲んで、ニューラルネットワーク理論研究の歴史と現状、、将来についての対談となっている。第2部の前に、分野外の読者の理解を助けるために、専門用語や背景などについて補足した解説もつけられている。第1部は神経回路学会誌に、第2部は電子情報通信学会誌に、一部掲載されているそうです。

はじめにの所に書いてあるのだけど、対談をまとめたものなので、専門用語などが多くでてきて、特に第2部は発言の意味がわからないところも多々ある。しかし、対談が基となっていることもあるからか、比較的読みやすく、脳科学およびニューラルネットワークの発展過程における、重要な研究がどのような背景や研究者によってなされたかや、当時の状況などがリアルに伝わってきて、細かいところをきにしなければ、研究者の意気込みやなぜそのような研究をしたかなどがわかって面白かった。
これまでに読んだ本などから、ある程度重要な研究をした人の名前は知っていたが、そういった研究者がどのような研究者だったかなどもわかり、面白かったし、現在残っている問題点などについても漠然とではあるが、見えたような気がして良かった。

2008年9月27日土曜日

美術散歩 印象派から抽象絵画まで を見てきた

数日前になるけど、ブリジストン美術館で10/19まで行われている、「美術散歩 印象派から抽象絵画まで」を観に行ってきた。

ブリジストン美術館のコレクションから、印象派の前の19世紀中ごろから、現在までの絵画や彫刻120点ほどに加えて、古代美術作品30点、日本近代美術27点が展示されていた。

彫刻はロダンやブールデル、ブランクーシなど、以前にもみたことがあるような気がしたが、古代美術は、初めて見たと思う。
絵画は、順路に沿って、最初の部屋では、コローにドーミエ、クールベ、マネ、ドガ、といった、印象派にいたるまでの19世紀中ごろから後半の作品、次の部屋ではピサロ、シスレー、モネ、ルノワール、ゴッホといった印象派、その次の部屋では、セザンヌ、ルドン、ゴーギャン、ボナールなど後期印象派?といった作家の作品たち、その次の部屋はマティスを中心に、ブラマンクやデュフィの作品を展示し、さらに続く部屋では、ルオーやローランサンが展示され、以降の部屋で、ピカソを中心にブラック、キリコ、ミロなど、コラージュ作品やキュビズムなどの抽象化した作品などの部屋、カンディンスキー、モンドリアン、クレー、レジェ、ビュッフェ、フォートリエなど、戦後の作品を中心にした、構成要素や不定形な抽象作品の部屋、現代までの、白髪一雄、エミリー・ウングワレー、ザオ・ウーキー、イマンツ・ティラーズなどの部屋といった感じで展示されていた。
さらに別の部屋では、日本近代洋画として、黒田清輝、藤島武二、青木繁、藤田嗣治、安井曾太郎、梅原龍三郎、佐伯祐三、岡鹿之助など、15作家の27作品が展示されていた。

有名な作家の作品が多数展示されていて、印象派以降の著名作家たちの展覧会といった感じ。
これと同じものが、西洋美術館とかで行われれば、きっと混雑するだろうに、この美術館はマイナーなのか、すいていて、のんびり見れて良かった。
名前は有名だけど、作品的にはあまり面白くないものや、代表的な作風と異なるものなどもあるけど、それはそれで、こういう作品もあるんだということを知れてよかった。
今回の展示では、マティスやピカソの作品がどちらも8点ほどとまとまっていて、いろいろな作風のものを見ることが出来て良かった。特に、ピカソの生木と枯木のある風景という作品が、ピカソの作風にしては変わった感じだと思って、印象に残った。

ブリジストン美術館に行ったのは、前々回の展覧会にあたる、20世紀から現代を中心としたコレクションを観に行って以来だから、半年ぶりくらい。
この美術館の展示はなかなか良いものが多いと思うのだけど、いつもすいているので、、順路をさかのぼって気に入ったのを再度見たり、のんびりみることが出来ていい。部屋の中央にある休憩用の椅子が一人がけなので、なんか、座っていていいのかっていう感じがしてしまうところが少し難点にも思うけど、、、

2008年9月23日火曜日

ライオネル・ファイニンガー展

横須賀美術館で8/2から10/5まで開催されている、「ライオネル・ファイニンガー -光の結晶」展を観に行ってきた。(この後、愛知と宮城の県美術館を巡回するそうです)
横須賀へ行くことが多いので、横須賀美術館のホームページの展覧会案内に載っている絵を見たり解説を読んで、今度見に行こうと思っているうちに、開催期間が終わりそうになってきたので、昨日、見に行ってきた。

ライオネル・ファイニンガーは、あまり有名はでないと思うが(私が知らなかっただけかもしれないけど)、1871年にニューヨークで生まれ、ヨーロッパで絵画を学んだ後、最初は新聞の風刺画などで生計を立て、36歳になってから油彩画を書き始めた作家だそうで、20世紀初期に活躍し、バウハウスの設立に参加して、版画印刷工房のマイスターに就任したり、カンディンスキー、クレー、ヤウレンスキーらと「青の4人」(同じく、カンディンスキーやクレーの参加した青騎士とは違って、知らないグループだったけど、青騎士より少し後なので、キュビズムの同じようなグループなのだろうか?)というグループに参加したのち、ナチズムの台頭により頽廃芸術の烙印をおされたことなどもあって、ニューヨークに戻って展覧会などを行っていたそうです。

今回の展示は、新聞に載せていた漫画から、初期の油彩画、キュビズムの影響を受けて以降や、晩年の作品、さらに、版画も多く製作していたそうで、バウハウス設立時の表紙なども含めた版画や、彫刻や木のおもちゃなども展示された、回顧展という形式。

初期の作品は、漫画や風刺画を書いていたという解説を先に読んだからか、特に初期の油彩画は、平面的で大胆な構図にデフォルメされた人物などは風刺画の表現を自由に広げたような印象だと思った。また、版画も多く、風刺画などと共通したイメージが感じられた。
パリのキュビズムの作品に触れて以降はキュビズムの影響を無視できない作品が多くなり、建物や、地面、海、空まで、直線や幾何学形状でリズミカルに区分けされた作品が多くなっている。一方、晩年の頃まで、輪郭をぼんやりさせた対照的な作品も同時期に製作しており、そのような作品も展示されていて、そちらも変わった感じで興味深かった。

個人的に、幾何学的に分割されて、再配置されたようなキュビズムの作品はなぜか惹かれるものを感じるので、知らない画家だったけど、気に入った絵もいくつかあって良かった。

キュビズムの影響を受けた作品も完全な抽象というよりは、建物や橋、海などを切子のガラス越しにみたような、クリスタライズされたとでもいうような印象で、展覧会タイトルの副題に「光の結晶」とある通り、光を感じさせる作品もあって、いくつかの作品は、私のつぼにはまる感じだった。

ただ、ホームページに載っていた作品は、そのようなキュビズムの絵といえる作品だったので、見てみたいと思って観に行ったのだが、作品数の割りには気に入った作品は少なかった。
しかし、静かでいながら光があふれるようなキュビズム作品やクレーの作品のような感じのものなど、かなり気に入った作品がいくつかあったので、楽しめた展覧会だった。

青の4人の本:

2008年9月21日日曜日

現代美術の教科書

美術手帳編集部編集、現代美術の教科書(2005.3発行)を読んだ。

前回読んだ、現代アートナナメ読みは、現代アートがコンセプチュアルな側面や能動的な社会との関わりが強くなっていることから、アートそのものの見方というより文化的社会的側面とのかかわりの説明みたいなところがあったため、どうも作品を中心に考えてしまう(考えが古いのか?)ので、他に現代アートの入門書のようなものはないかと思って、この本を読んでみた。

内容は、章立てとしては、教科書の名にふさわしく、序論、概論、演習となっている。
序論は、谷川渥氏により、現代美術の3D[立体]観測-新しい物語としての美術史のために-と題して、20世紀の終焉との関わり、イズムの変遷からアート群への変容といった、大きい物語から多数の小さな物語の氾濫ともいえる方向性や、目的論的な芸術の終焉が語られても芸術自身について語られるべきことは多数あり、いろいろな見方があるというようなことが述べられている。
概論では、現代美術マスターピース・リンク-セザンヌからマシュー・バーニーまで66作品をつなぐ11の新しい流れ-と題して、近代から現代美術までの流れを複合的(立体的)に捉えるため、絵画と写真からビデオ・アートへや、「抽象」の場所、ポップの系譜、壁画運動とグラフィティアート、などの11のトピックについて、それぞれ異なる執筆者が現代アートと過去の作品をリンクさせた解説を行っている。
後半の演習の章では、アート鑑賞術・入門-50の傑作を見る×読む◎空想ギャラリーツアーガイド-と題して、STEP1で、対話型・作品鑑賞シミュレーションとして、ゲルハルト・リヒターや奈良美智、フェリックス・ゴンザレス=トレスなどの5つの作品に対し、対話形式で作品や作家の特徴や、社会的、文化的背景や、作品の生み出す価値観などが語られている。続くSTEP2では、リンク型・比較鑑賞ワークショップと題して、ある作品と別の作品について、作品の特徴や意義などについて、共通点や相違点などの比較・対照して、語られている。

構成的には教科書らしいが、内容はかなり難しく、言っていることがよくわからなかった。
序論から、教科書といった入門的なイメージから考えると、難しく、現代美術の美術的変遷の中での位置づけと、現代芸術の過去のものからの変容、現代アートは言葉で語られ、見方を形成し、いろいろな見方を楽しめばいい、というようなことを言っているような感じはするけど、違うかもしれない。
さらに概論では、現代アートの作品を過去の作品などとの関わりを評論しているが、言葉の意味が良くわからないかったり、参照される思想や文化、芸術論自身わからなかったり、作品の意図をなぜそこまで考えられるのかわからないと感じる部分も多かった。
演習部分はこの本のなかでは、比較的わかりやすいというか、他の章に比べるとなんとなく言っていることがわかる感じのする部分もあったが、それでも、文章が難しく解説や内容が理解できるとまでは言い切れない。

とは言うものの、現代美術作品について、写真入りでの解説となっているので、評論の流れを追ったり関連知識を見につけることで、ある作品に対してより多く自分自身で語れるようになるような感じもして、そういう意味で現代美術の教科書なのかも知れない。
また、多くの評論家や研究者が解説しているため、文体も異なり、わからなさの程度も異なって、なんとなくわかったような気がするような評論もあり、良くわからないなりにもいろいろな見方を知れたような気もする。ただ、難しいため、読み終わったあと何が書いてあったか思い出そうとしても、漠然とした読後感があるだけで、うまく思い出せない。

現代アートを理解したり、楽しむっていうことは、ある作品に対し(一種のジョークのような、パロディのような、一発ギャグのような作品に対しても)、文化文明論や哲学、思想などを踏まえた理屈付けをして、美術史や社会状況の中に位置づけ文脈をつくり出していくといった評論作業?を自分で行うことで、一種の知的ゲームのようなものということなのかという感じがした。

2008年9月17日水曜日

最新 宇宙学 を読んだ

最新宇宙学―研究者たちの夢と戦い (ポピュラー・サイエンス)(2004.5発行)を読んだ。

ポピュラー・サイエンスシリーズの1冊。他のを読んだことがないので、どういう位置づけのシリーズがよくわからないけど、タイトルから、一般に興味を惹きそうな話題について、新しい研究結果や現在の研究内容などを紹介する本ではないかと思い、最近宇宙や天文ものの本は読んでいなかったので、読んでみた。

内容は、太陽系と宇宙人、星とブラックホール、宇宙と銀河の3章に分かれていて、いかにも面白そうな章立て。本の挿絵や章立てから受ける印象は最新の宇宙のトピックスをわかりやすく紹介した本と思ったが、中身は結構専門的(内容そのものは式もなく一般向けにかかれているが)で、最先端のトピックすがちりばめられている。

ただ、わからない用語が説明なく出てくるところも多く、話題のなかでの解説自体が良くわからないところが多かったのが残念。
専門家の間でなにが問題となっているかを知るにはよいかもしれないが、フレアとか表面振動、あるいは、惑星形成や銀河の形成の不明なところなどについて、観測結果やモデルの妥当性の評価の話など、話がそれぞれが担当している専門的な細かいところの話になっていて、面白さという点では難があるように思った。

研究者が興味をもって、宇宙の謎を解き明かそうと、科学衛星や望遠鏡による観測データから、新たな知見や法則を得たり、導こうとしている姿勢などは感じられ、宇宙学はまだまだわからないことも多く、可視光や電波やX線などを分光器などを使っ観測手段の向上によって、最近になって、太陽系以外の遠くの星の惑星の発見が相次いでいることや、遠い星の表面の様子まで探ることができはじめていることなど、すごいことになっていると思った。

入門書や一般向けの概説本に飽き足らない人くらいを対象にしているのだと思うけど、それにしては、説明が一般向けを意識してか、かなりあいまいになってしまっていて、結局、どのようにしていろいろな仮説がでるのか、あるいは、証明されるのかが良くわからなかった。
もともと、天文普及・教育に関心ある人たちの天文教育普及研究会の会誌「天文教育」での連載をリライトして、それに数本書き下ろしを加えたものだそうで、対象が一般というより、天文や宇宙について興味を持って知識もかなりある人なら、丁度いいのかもしれない。

2008年9月14日日曜日

GEISAIを見に行ってきました。

GEISAI#11、今年の5月にGEISAI MUSEUM2があったものの、GEISAI#10以来、2年ぶりに行われるGEISAI。

初めて観に行ったのだけど、若い人を中心にいろいろな作品が見られて良かった。
もっと、村上隆の色が濃いのかとおもっていたら、比較的参加しやすいとても自由なアートイベントといった感じ。
ゲストや、審査員などの招聘には、村上隆の力がかなり効いているのだろうけど、各ブースは思い思いの個性的な作品の集合で、ちょっと多すぎて体力的にきついのが難点なところか、、、

いろいろと個性的なアイデアやイメージの集積といった感じで、ポップというか、なんだかわけわからない感じの多かったけど、いい感じの作品も時々見られて楽しかった。
ただ、凄いというか、これは何だ?って感じで印象に残る作品はみあたらなかった。(見ているうちに疲れてきてしまったからかもしれないけど、、、)

ステージでのセレモニーやライブパフォーマンスは雰囲気を盛り上げるのに一役かっているのは確かだけど、ブースの場所によってはちょっとうるさすぎる感じで、かわいそうなところもあった。

2008年9月12日金曜日

目からウロコの脳科学を読んだ

脳の働きや心、意思の発生、認識などがどうなっているか引き続き興味があるので、サイエンスライターの書いた一般向けの脳科学の本で比較的新しい(2年以上たってはいるけど)、
富永裕久著「目からウロコの脳科学―心と脳はここまで分かった!」(2006.3発行)を読んだ。

中身は、最新トピックスを含めた脳科学の最先端(第1部)と、脳の仕組みを説明した基礎知識
(第2部)に分かれていて、さらに見開きページごとに話題がまとまっていて、興味に応じてどこからでも読めるようになっていて、読みやすい構成となっている。

意識については、意識的な動作もその意識に上る前から準備が始まることから、そもそも意識というものも幻想だという考えや、量子脳理論については、知らなかった話なので、興味深かった。意識の発生メカニズムとして、他にも、ニューロンの同期や多数のニューロンが構成する複雑系からの創発など、さまざまな提案がされていて、どれも、正しそうで、もう少し詳細を知りたくなった。
また、感覚も記憶に依存していることや、記憶は確定的なものでなくて変化すること、感覚も記憶も脳で作られ、そのとき、錯視などのように、適宜変更されていることなどを例を挙げてわかりやすく説明してあって面白かった。
他にも、いろいろな障害から見られる事例や実験結果の紹介、ブレイン-コンピュータインターフェースの話や、現在の脳研究の広がりなどについても紹介されていて、目からウロコっていうタイトルが、いかにも読者をひきつけようっていうタイトルで、どんなものかとも思ったけど、基本的な構成もわかりやすく説明してあって、理解できたような気になれる本だと思う。

2008年9月11日木曜日

ジョン・エヴァレット・ミレイ展にいってきた。

Bunkamuraザ・ミュージアムで10/26まで開催されている、ジョン・エヴァレット・ミレイ展をみてきた。
私の好きな分野は、抽象表現主義などの抽象画なこともあって、このようなヨーロッパの具象絵画はあまり区別ができないし、惹かれる作品もあまりないのだけど、ラファエル前派のロセッティやミレイなどの作品は、高校か大学に入ったくらいの時にみて以来、気になっている作風の画家なので、今回の展覧会のチラシを見て「オフィーリア」の絵を見るのを楽しみにしていた。
今回の展覧会は、各国を巡回するミレイの大回顧展とも言え、代表的な作品が多数展示されていて、「オフィーリア」以外にも「マリアナ」や「旦那様への手紙」など、なぜか、心惹かれるというか、気持ちが揺さぶられる作品が多かった。
それらの絵は、精密で緻密な一方で、なんとなく幻想的な雰囲気がしたり、なにか言いたそうな、心の奥底の言い知れない感情が顔にでているような不思議な感覚にとらわれる作品だと思った。
そういった「オフィーリア」などの代表作は、説明を読むと絵の中にある花や静物にも暗示するものがあったり、物語性があってその表現の点でも評価されたりするようだけど、そういう説明抜きに、惹かれる作品だと思う。
ミレイの絵は、矛盾するというか変な表現になるけど、まるで絵を見るような美しい風景や情景、といった感じの鮮やかで緻密な絵が多く、ラファエル前派として位置づけられるのは、20代の若い頃の作品なんだろうけど、晩年の風景画は初期の頃と比べると、近づいてみると葉の形など細かいところは正確な緻密さを持っていないようなのに、離れてみるとものすごく緻密に描かれているような印象をうけ、非常にいい絵だと思った。

ミレイはロセッティと比べて知名度は低いと思うし、あまり良くは知らなくて、以前(といってもかなり昔)ラファエル前派展かなにかで、代表作「オフィーリア」を見た記憶はあったけど、他はよく知らなかったけど、いくつかは見たことがあり、改めてミレイのだとわかりよかった。また、今回は晩年までの様々な作品が展示されていて、比較的大胆な描写のものもあり、作風も変化していることも知った。
今回の展覧会は見ていて心地よいというか、良い展覧会だったので、久しぶりに図録も購入した。ただ、印刷したものと本物とでは、そもそも大きさが違って受ける印象が違うし、どうも色合いが印刷のほうが必要以上に濃いい感じがしたり、タッチの印象もなんか違う感じがするのが残念。印刷技術は進んでいるんだろうけど、なんか違う。

bunkamuraザ・ミュージアムは前回のロシア・アヴァンギャルドに引き続きの来訪。ここは、ほとんどの作品に説明がかかれていて、興味がある人には親切でいい。ただ、今回は、人気があるようで割と入場者が多く、混んでいるときは、人の流れが痞えてしまって、落ち着いて見れない感じがするのが難点な気もする。

2008年9月7日日曜日

芸術起業論

作品は私の好みではないのだけど、16億円で落札されるように、少なくても現時点では評価が高く、美術史上に名が残るであろうから、食わず嫌いというか、毛嫌いせず、今年再開されるGEISAIも行ってみようと思っているので、村上隆の本「芸術起業論」(2006.6発行)を読んでみようと思い、今週末読んでみた。

内容は、日本のオタク文化を、日本の文化的背景を含めて欧米の美術史の文脈中にストーリー付けすることで、欧米の美術界にうまく説明してマネーを引き込み、世界に通じる芸術を作り出してきたという自負を基に、欧米の美術界を踏まえた買い手とのコミュニケーションやニーズの把握、コンセプトなどのストーリー付けといった戦略や、作り方や売り方を含めたマネジメントまで、座標軸を据えたプロデュース能力が重要という話。
マネーの獲得の重要性や、日本の美術界が内輪で自由にやっていて、ぬるい状態になってしまっていること、芸術を生むには欲望や業というようなものや、自分の中の核心を発表することが重要なこと、芸術の矛盾などを抱え苦しみながらも挑戦を続ける地獄や、挫折を乗り越えることが必要で、芸術を成すには怒りや劣悪な環境がいい環境だったり必要だというようなことも書かれている。

言説の細かいところをいえば、矛盾を感じるようなところがある。例えば、金額が評価の軸としてわかりやすくマネーが重要でニーズを捉え、欧米美術の文脈の中にいれていくことが重要なことをいいながら、自分の核心を表現することこそ芸術となるようなことや自分の興味を追求し究明していくことが共感を呼ぶようなこといっていたり(自分の核心の表現をニーズを満たすように表現、発表することがマネーを稼ぐことになるというようなことを言っていて、それほど矛盾ではないかもしれないが)している。
しかし、それは、言葉の表現の問題というか、そもそも、矛盾をはらんだ問題のなかで、いろいろ考えていることを表現した結果とも思える。

歴史を知り、文脈を理解することの重要性にも触れていて、結局は、欧米の異文化への瞬間的な驚きにうまく乗って、たまたま成功したのではないかという感じも捨てきれないものの、現代アートは非常にコンセプチュアルなものになっていて、ストーリー付けも言った物勝ちというか、優れた評論家に評論されたもの勝ちのような感じがするなかで、確かに成功しないと芸術は埋もれてしまうことから、プロデュース力も重要だと思った。
また、実際に評論などもあまり読まずに、聞きかじり情報から、村上隆の作品のイメージやプロデュース力でやっていくところや、オタク文化を美術的な価値あるものとして紹介した一方で、ナルミヤインターナショナルとの訴訟を起こすことへの矛盾などもあって、嫌いだったのだけど、欧米文化の中へ入れ込むのには、情けないような敗者意識や現実逃避のような平和で楽観的な子供っぽい多層文化と日本古来の汎神信仰からつなげられる「かわいい」キャラクター文化といったような位置づけの仕方や、訴訟問題も本人のなかでは、芸術を文脈中にいれることと、それを商業的に利用することとの違いや、権利確保がこれからの美術作家を擁護するというようなことをかんがえているのかなど、多少肯定的にも捉えられるようになった。

どうも、本を読むとその意見に影響されやすくて、肯定的に捉えようとしてしまうのだけど、まあ、いろいろな考え方を知るのはよいことだと思うので、この本は、文章自体は平易で読みやすく、読んでよかったと思う。

2008年9月6日土曜日

行動ファイナンス入門 を読んだ

久しぶりに経済学というか、ファイナンス理論関係の本といっても入門書、
岡田克彦著「図解でわかる行動ファイナンス入門」(2007.7発行)を読んだ。

内容は、市場の動きやお金の流れなどの経済について、理想的に仮定した経済人による行動としてとらえた伝統的ファイナンス理論では説明仕切れないアノマリーも含め、非合理的な人間心理による行動を考慮してとらえることで、現実の経済現象をより正しく捉える(ということだと思う)行動ファイナンス理論の入門書。
最初の章は、伝統的な従来のファイナンス理論の紹介として、リスクとリターンや標準偏差などの基礎的概念の説明や、株式価値の決定方法、リスクプレミアムやモダンポートフォリオ理論について、平易に解説されていて、続く章では、それらの理論にあわない例(アノマリー)とそれを説明するための理論の修正などについて説明され、最後の章で、従来の理論の前提となる、参加者が経済合理性に基づき行動する効率的市場ととらえるのではなく、ときには非合理的に判断する人間心理を考慮した行動ファイナンスの紹介となっている。

行動ファイナンスについて知っている人にとっては、人間心理による判定の違いの例について、説明が丁寧であらためて、非合理性を感じることはできるものの、目新しい点はなく、あくまで入門書として、気楽に読むのに向いた本。
式もわずかに使われているのみで、それも概念の説明が中心で、厳密に意味を理解するにはより専門的な本を読んだほうがいいと思うし、非合理的な判断の例が特に市場への投資という点では、その影響がわかりにくいものもある。しかし、伝統的なファイナンス理論との対比も含めて、行動ファイナンスとはどんなものか、人間の非合理的な行動とはどういったものかなど、基本的な概念を知るにはわかりやすくて良い本だと思った。

2008年9月4日木曜日

考える細胞ニューロン を読んだ

櫻井芳雄著「考える細胞ニューロン―脳と心をつくる柔らかい回路網 (講談社選書メチエ)」(2002.5発行)を読んだ。

内容は、心を生み出す脳の働きを知るために、脳を構成する主要な細胞であるニューロンとその働き、ニューロンが構成する回路網の動きなどについて書かれていて、複数のニューロンが参加して造られる機能的なセル・アセンブリにより、ダイナミックに変化する回路網と情報処理が行われることを説明し、記憶や個性の表れ方についても、解説されている。

比較的新しい知見も含めて、説明がされていて、一般向けに平易に書かれていて読みやすかった。
脳に関する他の本では、単純化されたニューロンについて、その構成や機能を書かれていることが多いが、この本では、ニューロン自身、いろいろな形態があり、非常に多数のシナプス結合を持ち、複雑な化学反応でシナプス間の情報伝達が行われていること、そして、単一のニューロンがいろいろな情報処理に関わることなどが書かれていて、ニューロンが、その複雑さと可塑性について、これまで思っていた以上に柔軟でダイナミックな変化を行う細胞であることを知った。
また、脳の機能地図なども、それほど明確に分かれているわけではなく、多数の人の平均をとるとそのようになるというような感じで、脳の構成や働きは思っていた以上に一人一人異なることもわかった。
脳の情報処理をする単位とも考えられる、複数のニューロンが参加するセル・アセンブリによるダイナミックな情報処理については、まだ、明確になっていないところが多分にあるようだけど、ネットワーク自身が多数のセル・アセンブリを造って記憶や認知、判断などを行うというダイナミックで柔軟な構成で脳が機能しているという考えが述べられていて、まだまだ、脳の動作など不思議な点がたくさんあると思った。
また、脳は非常に柔軟なネットワークもち、記憶や判断を行いながら、逐次、構成自身も変化させていくものであり、年をとっても、その変化は続いていて、これまで知られていた以上に脳の可塑性が高く、このことを示す報告が近年増えていることも判り、年取っても脳に刺激を与えることで、まだまだ、脳の機能を高めていくことは出来そうだと思った。


最後の方は、個性のはなしに絡んで、IQなど測定方法自身の問題を考慮せずに評価をしてしまうことや、権威主義に陥ってしまう硬い考えの人に対する、非難というか、問題をあげつらっている感じもするが、全体としては、最近の脳に関する知見を含め、脳の働きに関してわかりやすく書かれていて、良い本だと思った。



2008年9月2日火曜日

現代アートナナメ読み

暮沢剛巳著「現代アートナナメ読み 今日から使える入門書」(2008.7発行)を読んだ。

あとがきに、
現代アートの平易な入門書として企画されたものである。第1部「ゲンダイアートナナメヨミ」では、15の関連キーワードを通じて現代アートの様々な側面にスポットを当て、第2部「アートの見方ナナメヨミ」では、多くの読者になじみの薄い美術評論家諸氏の解説やマッピングを、第3部「アートを観に行くナナメヨミ」では、美術館やパブリック・アートを紹介すると同時に、アートフェアやアートNPOの簡単なガイドを試みるなど、「ナナメヨミ」というキーワードを軸に据えた多角的な内容となっている。(以上、あとがき より)
とあり、現代アートの入門書とのことなので、現代アートはどうもよくわからないけど、なんとなく興味もあるので、読んでみた。

タイトルなど中身を読む前には、入門書ということで、代表的な作品を例に、批評家の意見や見方を例示したり、それらが発表されたときの状況や価値感の移り変わりなどを説明するようなものかと思った。

中身は、著者が書いたあとがきにある通りなんだけど、読んだ感じでは、第1部では盗作や国策、市場、観光、スポーツ、犯罪、医療、経営、をキーワードとして、関連した話題についての質問というか疑問に対し答える形式で、現代アートがいろいろな形で社会に関わっていることについて、事例などを挙げた説明がされ、第2部は現在の現代アートにいたるアートの評論状況や批評家ごとの事例などの説明となっていて、第3部は、美術館やカフェ、アートNPOの紹介やアートの買い方など、アートを楽しんだり参加するための案内書のようになっている。

第3部は入門書としての役割を十分果たしていると思うものの、第1部はアートプロジェクトや作品がアートと社会の関わりを説明するための事例としてはでてくるものの、メインは社会との関わりの説明で、アートの入門書というより、文化人類学や社会学のアートに関するエッセイのような感じだと思った。
また、第2部は対談は、評論の現状ということで、知らない評論家や作品作家などが出てきてよくわからないところも多いものの、評論家と現代アートの状況、アート教育の現場の状況などを知ることができ興味深かったものの、評論家諸氏の解説は、美術評論そのものをそれほど読んだことがなかったため、用語や内容が難しく、ほとんど良くわからず、字面を追うだけというか、それこそ、ナナメヨミに終始した感じだった。

いわゆる入門書の持つイメージと異なるアートの入門書だったけど、現代アートという評価の定まっていないものを見るための関連知識の提示をしているという点では、読む価値はあったと思う。

2008年9月1日月曜日

8月に見てきた展覧会や読んだ本

今日は、なんだか体がだるくて、少し調子が悪いので、家でごろごろしているので、8月に行った展覧会や読んだ本を整理してみた。
8月分のブログ記事などから整理すると、

8/8に、東博の、対決-巨匠たちの日本美術展
8/21に、都美術館の、「フェルメール」展と、
    東博の平常展(特集陳列は六波羅蜜寺の仏像など)
8/28に、国立近代美術館の、「エモーショナル・ドローイング」展、「壁と大地の際で」展

といった感じで、今月は都内に行く機会が少なかったので、交通費の節約もあって、少なめ。

読んだ本は、読んだ順に
アートウォッチング(現代美術編)
八月の路上に捨てる
パークライフ
どんな仕事も楽しくなる3つの物語
中陰の花
蛇にピアス
脳と創造性
この絵、誰の絵?百の名作で西洋・日本美術入門
ハリガネムシ
スティルライフ
永遠の旅行者 上下
ゲーム脳の恐怖

といった感じで、芥川賞関係の小説と、アート関係、脳に関するものが、今の興味の中心。
最近は節約モードのため、本も図書館で借りるのが中心なので、どうしても、最近の本が少なくなってしまう。まあ、新しければいいわけでもないので、いいのだが、、、