2008年9月7日日曜日

芸術起業論

作品は私の好みではないのだけど、16億円で落札されるように、少なくても現時点では評価が高く、美術史上に名が残るであろうから、食わず嫌いというか、毛嫌いせず、今年再開されるGEISAIも行ってみようと思っているので、村上隆の本「芸術起業論」(2006.6発行)を読んでみようと思い、今週末読んでみた。

内容は、日本のオタク文化を、日本の文化的背景を含めて欧米の美術史の文脈中にストーリー付けすることで、欧米の美術界にうまく説明してマネーを引き込み、世界に通じる芸術を作り出してきたという自負を基に、欧米の美術界を踏まえた買い手とのコミュニケーションやニーズの把握、コンセプトなどのストーリー付けといった戦略や、作り方や売り方を含めたマネジメントまで、座標軸を据えたプロデュース能力が重要という話。
マネーの獲得の重要性や、日本の美術界が内輪で自由にやっていて、ぬるい状態になってしまっていること、芸術を生むには欲望や業というようなものや、自分の中の核心を発表することが重要なこと、芸術の矛盾などを抱え苦しみながらも挑戦を続ける地獄や、挫折を乗り越えることが必要で、芸術を成すには怒りや劣悪な環境がいい環境だったり必要だというようなことも書かれている。

言説の細かいところをいえば、矛盾を感じるようなところがある。例えば、金額が評価の軸としてわかりやすくマネーが重要でニーズを捉え、欧米美術の文脈の中にいれていくことが重要なことをいいながら、自分の核心を表現することこそ芸術となるようなことや自分の興味を追求し究明していくことが共感を呼ぶようなこといっていたり(自分の核心の表現をニーズを満たすように表現、発表することがマネーを稼ぐことになるというようなことを言っていて、それほど矛盾ではないかもしれないが)している。
しかし、それは、言葉の表現の問題というか、そもそも、矛盾をはらんだ問題のなかで、いろいろ考えていることを表現した結果とも思える。

歴史を知り、文脈を理解することの重要性にも触れていて、結局は、欧米の異文化への瞬間的な驚きにうまく乗って、たまたま成功したのではないかという感じも捨てきれないものの、現代アートは非常にコンセプチュアルなものになっていて、ストーリー付けも言った物勝ちというか、優れた評論家に評論されたもの勝ちのような感じがするなかで、確かに成功しないと芸術は埋もれてしまうことから、プロデュース力も重要だと思った。
また、実際に評論などもあまり読まずに、聞きかじり情報から、村上隆の作品のイメージやプロデュース力でやっていくところや、オタク文化を美術的な価値あるものとして紹介した一方で、ナルミヤインターナショナルとの訴訟を起こすことへの矛盾などもあって、嫌いだったのだけど、欧米文化の中へ入れ込むのには、情けないような敗者意識や現実逃避のような平和で楽観的な子供っぽい多層文化と日本古来の汎神信仰からつなげられる「かわいい」キャラクター文化といったような位置づけの仕方や、訴訟問題も本人のなかでは、芸術を文脈中にいれることと、それを商業的に利用することとの違いや、権利確保がこれからの美術作家を擁護するというようなことをかんがえているのかなど、多少肯定的にも捉えられるようになった。

どうも、本を読むとその意見に影響されやすくて、肯定的に捉えようとしてしまうのだけど、まあ、いろいろな考え方を知るのはよいことだと思うので、この本は、文章自体は平易で読みやすく、読んでよかったと思う。

0 件のコメント: