2009年4月8日水曜日

多世界宇宙の探検を読んだ

アレックス・ビレンケン著、多世界宇宙の探検 ほかの宇宙を探し求めて、(2007.7発行)を読んだ。

久しぶりに読んだ宇宙論関係の本。宇宙論を研究し世界的に知られる著書が一般向けに書いた本で、現在の宇宙論から考えられる宇宙のモデルやそのモデルがもたらす世界観を解説した本のようなので、興味を持ち読んでみた。

構成は、宇宙創世記、永久インフレーション、「平凡の原理」、始まりに先立つ、の4部で、それぞれが、4から6の章立て。
第1部では、グースの提案したインフレーションする反重力物質の崩壊がビッグバンとして現れるというインフレーション理論からはじまり、この反重力物質と同様の考えがアインシュタインが導入し後に撤回した宇宙定数にあること、アインシュタインの理論以降に導かれた宇宙の構造やビッグバン後の物質や銀河など宇宙創世のモデル提案と、観測結果による裏付けられてきた様子を踏まえて、再び、現在の宇宙ができるのに必要となるビッグバンの初期状態がどのように決まったかを示すインフレーション理論の、緩やかなランドスケープを持つスカラー場を偽の真空が移動し、最小値の振動により崩壊してエネルギーが火の玉のビッグバンとして現れる宇宙ができるという内容について、現在に至るまでの検討状況を含めてより詳しく説明されている。
続く第2部では、インフレーションする偽の真空の膨張速度は、その崩壊速度より速く、偽の真空の指数関数的な膨張の海の中でインフレーションの終わった島宇宙が形成され、その島宇宙が次々形成される永久インフレーションモデルや、1998年に宇宙の膨張が加速しているという観測結果から、真の真空もゼロでない質量密度を持ち、アインシュタインの導入した宇宙定数に対応するものが存在すると考えられること、宇宙の平坦度や小さな密度のゆらぎがマイクロ波や背景放射の観測からも裏付けらてきていることなど、最近の動向や著者の提案した永久インフレーションモデルの時空の構造について、すべてのビッグバン事象は空間的(光速で移動しても到達できない)間隔で隔たれていること、島宇宙の内部的な視点からはビッグバンは同時に起こり島宇宙は無限大に見えるが、インフレーションする巨大な領域全体からみた視点では、ビッグバン群は島宇宙の境界で進行して島宇宙は時間と共に成長するようにみえ、空間的な無限が別の視点から時間的な無限にみえることや、島宇宙の数も時間と共に増え続けることなどが書かれ、さらに、観測可能な地平線内の宇宙と同じ大きさを持つ無限のО領域で島宇宙を分割し、量子力学的な不確定性によりО領域の物質が取りうる構成の数が膨大ではあるものの有限であること、さらに、二重スリット実験により可能な近接した歴史が干渉して事象は確率的に表現されることから、歴史も区別される構成の数は有限となること、一方で無限個のО領域が存在することは、すべての歴史がどこかで起きていると考えられることなど、量子力学的な確率の性質が宇宙の構造に関わり、量子力学の解釈のように多世界解釈が生じることなどが述べられている。
そして、第3部では、
真空が量子物理学においては、量子ゆらぎを持ち、スケールを小さくすると揺らぎの強さと振動は増加していくこと、スケールを小さくすると時空の幾何構造もゆらぐなど、とてもダイナミックでエネルギーは大きくなる一方、真空のエネルギーに対応する宇宙定数がインフレーション理論からは決まる上限値はとても小さいことから、まだ発見されていない素粒子の対称性から説明されることを期待していたが、真空の質量密度が宇宙を平坦にするのに対応した量と導く観測結果が出てきたこと。
その数値が、偶然にしては出来すぎていて、それは、観測者が存在できるような適度な時間存在できる宇宙がたまたま観測されるからというような人間原理に関わる議論や、物質や相互作用のより統一的な理論として期待される、ひも理論とそのランドスケープから様々な真空に対応した領域が永久インフレーションの進行する間に生み出されるといった話がされ、
最後の第4部では、
宇宙のさらに始まりについて、時空の存在しない無から量子トンネル効果によって偽の真空が生まれるモデルや、終わりについては、従来は宇宙の密度が臨界密度より大きければ収縮に転じビッグクランチが、小さければ膨張を続け冷えた星の残骸が増え、さらには、分解し、ひたすら薄くなるニュートリノと放射の混ざったものになるといったものから、インフレーションにより宇宙の密度が臨界密度に近く、構造形成が長く続くこと、インフレーションは永久に続き宇宙全体は終わらないという考えになり、最近では宇宙定数が存在する証拠が出てきているため、膨張を続けることが予測され、さらに宇宙定数が定数ではなく真空のエネルギーは減少して行き、負となる場所もでき膨張は停止しして収縮が始まる可能性もあること、ひも理論のランドスケープから、真空が泡核形成を通じて崩壊し、負のエネルギーを持つ真空の泡が時折出現して膨張し、それとぶつかり消滅するシナリオなども考えられることが述べられていた。

前回読んだ宇宙論の本、暗黒宇宙で銀河が生まれる ハッブル&すばる望遠鏡が見た137億年宇宙の真実 (サイエンス・アイ新書)では、一般向けに宇宙論を基本的な知識からインフレーション理論や暗黒物質の存在まで、広く技術的な内容をわかりやすく説明していたものだったが、こちらは、量子論やビッグバン宇宙論を踏まえ、現在の宇宙の状態やビッグバンの初期状態がなぜいまのようになっているかなどの問題が暗礁に乗り上げていたところに出てきたようなインフレーション理論の提案とその問題点やそれを解決するための新たな提案など、最新の宇宙論の発展してきた様子や、人間原理なども含めその理論が導く世界観に話の中心があり、物語的に書かれた本。

インフレーション理論の描く宇宙の始まりは、
エネルギーが高い偽の真空が持つ張力に対する反発力としての重力が質量に起因する引力よりも大きい場合、質量密度が一定のまま膨張していき、膨張率一定のまま指数関数的に膨れ上がっていき、その過程のなかで、不安定な偽の真空が崩壊してエネルギーがビッグバンの火の玉となる。インフレーションの中での崩壊は泡の発生のようなもので、その衝突によりエネルギーが高温の粒子となるが、その崩壊は、平坦なエネルギー密度のランドスケープを持つスカラー場の変化で表され、高いエネルギー密度の偽の真空が低いエネルギー密度の方向へ移動し、最小値を持つ真の真空の位置で振動して、場のエネルギーが粒子の熱い火として放出されることでインフレーションが終わりビッグバンとなることのよう。
また、このりろんにより、不安定でエネルギー密度の高い偽の真空のかけらがインフレーションを続け膨張しながら一方で崩壊したところがビッグバンとなり、十分空間が広がってから崩壊して火の玉となることから宇宙が高い精度で臨界密度と一致しビッグバンの初期状態と現在の宇宙の平坦性などの問題を解決するよう。

こういったインフレーション理論のイメージがこれまでよりわかったように思う。
また、量子力学的な効果から膨大とはいえ、観測可能な範囲の宇宙が取り得る状態が有限で、そこにある歴史も有限で、観測者からは宇宙が無限大にみえることから、すべての取りうる状態や歴史がありうるという考えは、非常に不思議な感じがした。
他に、真の真空が質量密度を持つ可能性が出てきたことなど、最近の宇宙論の変遷をしることができて良かった。

わかりやすくするためにイラストなども交えて説明されているが、どうしても時空間の境界や閉じた空間、ローカルな観測者からは無限大の空間に見える事象がグローバルな観測者からは有限の空間が無限に進行する様子にみえることなど、なかなかイメージがつかめない。
しかし、複雑な理論の雰囲気はわかるような気になり、研究者の意気込みや論議のなかから理論が生まれる様子も伝わってくる良い本だと思う。

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