2008年11月8日土曜日

ヴィルヘルム・ハンマースホイ展を観てきた

国立西洋美術館で12/7まで行われている、企画展「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」を観てきた。

知らない作家だし、私の好きな分野の絵でもなさそうなので、9月末から開かれていたものの、気が向いたらいってみようかと思っていた程度だったけど、西洋美術館で企画されるくらいだから良い作家なのだろうし、広告などをみて少し気になったので、観に行ってみた。そんな感じで、あまり期待していなかったのだけど、予想以上にいい感じの絵が多く、観に行ってよかった。

展覧会は、初期の作品、建物と風景、肖像画、人のいる室内、誰もいない室内、同時代のデンマーク画家、といった分類でまとめられていた。

初期の作品とそれ以降の作品とでは、筆調が少し違うものの、モチーフや色調はそのままひきつがれていて、絵から受ける印象も同じ感じで、初期段階からスタイルが変わっていないというか確立されていたよう。
建物と風景では、宮殿など普段人が行き交うような場所を選んでいるにもかかわらず、人は描かれず建物だけが淡くモノトーンに近い印象の色調で描かれた作品が多い。
風景には他の作品と比較すると、少し鮮やかで印象が異なるものもあるが、人は描かれず、静かで少し不穏な感じが共通しているように思った。
肖像画のところは、個人的にはあまりいいと思ったものはなく、本人も肖像画は好んではいなかったようで、書く場合も「モデルのことを良く知る必要がある」そうで、親しい人物しか書いていない。内面を描こうとしたのだと思うし、作品もその人の肖像を書いたものというより、静けさや少し不気味な空間要素として描かれている感じがする。
中心的な作品たちと思える、人のいる室内、誰もいない室内の展示は、どちらも調度品が少なく生活感のない、静かで少し不気味な不思議な感じのする室内画だった。人のいる室内といっても、大半は黒いドレスを着た女性(奥さん)が後ろ向きでたたずんでいるだけで、そのことにより、鑑賞者の視点や観たときの印象が変わってくるものの、基本的には人のいない室内と同じで、これらがハンマースホイの特徴なのだと思う。
他に、ハンマースホイの友人でもある同時代のデンマーク画家の室内画も展示されていて、影響や違いがみられ、興味深かった。

企画展タイトルの副題に、静かなる詩情、とあって、確かに人のいない建物や室内、人がいても後ろ向きだったり、鑑賞者を無視してたたずんでいる感じで、静謐というか静けさを感じる絵が多い。ただ、詩情というとなんとなく、やわらかいような暖かみも感じるけど、ハンマースホイの作品は淡くてモノトーンに近い色調と、不気味な感じの静けさで、キリコの形而上画のような雰囲気で、少し不気味な不穏な感じがして、詩情という感じではないように思った。
ただ、抑えられた色調や構成はホイッスラーを意識しているようで、その意味では、詩情という方向なのかとも思う。

作品の多くは、建物や室内の様子や調度品などが精密に描かれているのだが、どことなく幻想的で、不気味な感じがする。
実際、視点の位置が複数あるというか、場所によってずれているように感じるところや、積極的にずらしていて、実際にはありえない構図になっていたり、室内の調度品の影の方向が違っていたり不自然な部分もみられ、それらが、よけいに幻想的な雰囲気を出しているのかとも思う。
また、家具などは実際より少なく、机や椅子が置かれている程度で、必要最小限というか、少しの家具だけ残し、人がいる場合も黒いドレスで、後ろ姿など表情が読み取れない構成が多く、物語性が排除されている。さらに、人がいない室内は、壁や床と、家具により独特のとても静かな空間が構成されているため、特定の室内を描いているにもかかわらず、部屋というものが抽象化され、色調や空間構成が感性を直接刺激する感じがした。

緻密な具象絵画でありながら、物それ自体の物語性が排除されているために、淡い色彩や室内が持つ壁などの構造からつくられる美意識が前面にでてきて、抽象絵画のような感覚的な把握が中心となる感じで、その感覚がいい感じで、見ていて楽しいというか印象深かい作品が多く、観に行ってよかった展覧会だった。

ハンマースホイの本:

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