2008年10月3日金曜日

脳の情報表現を見る を読んだ

櫻井芳雄著、 脳の情報表現を見る (学術選書 30 心の宇宙 6)(2008.2発行)を読んだ。

先日読んだ「脳科学のテーブル」と同じく、京都大学出版会の学術選書シリーズの1冊(こちらのほうが30番と発行は先だけど)で、先月初め頃読んだ「考える細胞ニューロン」と同じ著者の本。

内容は、「心が存在していることは間違いなく、それを脳が生み出していることも間違いないのであれば、心は脳の活動に表れているはずである。そして、心を作り上げている個々の感覚、記憶、観念、感情、意図などを現代風に「情報」と呼ぶならば、心とは脳が表している情報であり、私たちは現在それを見る手段をもっていないがために、心が見えないだけなのかもしれない。」(まえがきより)ことから、脳が表現している情報を捉えることで、自由な心を解明しようと、第1章から4章で、脳を構成するニューロンから脳が表現する情報を検出する実験方法や研究結果、情報表現手段としてのセル・アセンブリとその実験による検証など、脳の情報表現をさぐる研究についてかかれている。続く第5章では、情報を知ることにより人間の感覚・運動器官の機能の補償や拡張となるかもしれないブレインーマシン・インターフェースの研究状況がかかれ、以降の章では、情報表現を生み出す神経回路網の生成や常に行われている更新などをニューロンの変化から解説した話や、回路網の生成・組み換えと情報表現の関わりにより生じる個性、情報表現の混乱や再生に関する話題を生まれつき、あるいは、病気やけがにより脳が損傷した場合の障害や回復例などを交えて解説が行われている。

前回読んだ「考える細胞ニューロン」と重なる部分が多いが、こちらは、実験方法や結果の考察などがより詳しく説明されていて、実験の難しさや、実験方法による限界などがわかり、多くの結果が相関をとって検証していて、実験結果の必要十分性は得られているか不明で、Aである場合にBだったという結果に過ぎないのに、BとなるのはAによるみたいな感じに広まっている話が多いように思った。
また、ブレインマシンインターフェースについては、テレビや雑誌で見たことがあって興味があり、ラットの実験から始まって、実際に人でも実験が始まっている状況まで書かれていて、非常に興味深かった。
6章以降は、神経回路網の柔軟性などに関する話題だったので、前回の本のほうがむしろわかりやすく書いてあったと思う。機能が損傷しても回復した例については、こちらのほうがいろいろ挙げてあると思うが、、、

脳は非常に柔軟な変化する神経回路と言っていて、脳が損傷してもその部分の機能を他の部分が補償したりする例がある一方で、脳に損傷を起こしてから、ずっと記憶障害に悩まされる例などもあることから、柔軟という一方で損傷による影響の多い部分もあるように思った。
ただ、回復するのは運動機能のような例が多く、損傷の影響が残るのは記憶や正確などといった部分なようにも思えたので、さらに脳での情報表現が明確になれば、補償しやすいものとしにくいものとかもわかるのだろうと思う。
また、植物状態の人も意識はあって、それを表現する機能が失われていることもあることなど、脳の働きはまだ不明なところがたくさんある一方、理解するにはまだまだ、技術的にも難しいことがわかった。

実験の部分などで、解説が良くわからない部分もあったが、全体的にはわかりやすく、新しい知見も含めて書かれていて、脳の研究の難しさを知る一方、脳の複雑さや柔軟性などについて改めて考えさせられる本で、やはり脳は不思議で興味ぶかい。

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