2008年8月5日火曜日

八月の路上に捨てる

(別サイトと同じ内容)
このところ、評論っぽい本を読むことが多かったので、たまには、小説でも読もうかと思って、ならば芥川賞作品がいいかと思い、伊藤たかみの「八月の路上に捨てる」(第135回、2006年上半期受賞作)を読んだ。
夏の暑い中、トラックでルートを回りながら、自販機の中身入れ替え作業をする二人の間で交わされる、主人公の離婚話。作業しながらの会話や主人公の回想といった形で、展開していく。
お互い夢を追いかけながら実現できず、近づいて生活しても分かり合えない部分があったり、なんでもいえるようでいえなかったりといった、いろいろな感情のせめぎあいというか、感覚が描かれ、本気で精一杯生きているのに、だからこそ、衝突してしまうような、人間関係と気持ちのゆれが、切れ味のよい読みやすい文体で書かれているように思う。
主人公が30歳で、新しいことを始めるのには難しく、夢の実現は難しいことがわかっているものの、あきらめきれず、結婚してお互いに責任をなすりつけたりできれば楽なのに、相手の気持ちまでわからず、気持ちが離れていくといった、話の筋としては、比較的ありがちだけれど、もがきながらも、夏の暑い中にけりをつけていくさまが、会話と回想を通して、淡々とした感じで伝わってくるように思う。


八月の路上に捨てる
伊藤 たかみ
文藝春秋

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(追記)一緒に掲載されている「貝からみる風景」は、30くらいの共働き夫婦の日常に起きるちょっとした出来事を、主人公の思いや感情を独特の感覚で切り出していて、それでいて、あっさりとした表現で文章がつづられていて、さわやかな感じのする短編で、文章の構成という点では拙い感じはするが、こちらのほうが、感情の機微やちょっとした出来事での人との衝突や愛情のようなものが感じられていい感じがする。

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