2008年8月14日木曜日

脳と創造性

脳と創造性「この私」というクオリアへ、を読んだ。
ここ数年というか、もう少し前からかもしれないけど、いろいろな番組や対談などで、見かけるようになった茂木さんの本。

内容は、コンピュータやITが発達した今、人間の創造性はこれまでにないくらい重要なものとなっている、創造性というのは、一握りの天才がすばらしいものを生み出す能力として捉えるのではなく、生物として人間が発展してきた過程で生成、獲得してきた能力であり、日々の会話も非常に創造的な現象であって、創造性は誰でも持っている能力である。しかし、創造性の現れ方は様々であるのに、社会的な文脈に落とし込んでしまうことで、天才などに限られたものと認識されてしまっている。脳科学などの最新の知見を参考に創造性というものを捉えなおし、常に変化し新しいものを生み出している創造的な脳も、進化というか自己組織化といった自然界の傾向の上で存在していて、創造性も脳も特別なものと捉えるのではなく、誰もが脳を使って創造していて、創造的に生きることが良く生きることにつながる。というようなことが1章までに書かれていて、この本の主題のよう。以降の章では、コンピュータのような予定調和的な論理的推論とは脳の働きは大きく異なり、ある特定状況からの逸脱とも言える直感や、不確実で複雑な状況を限られた知識や状況データから決断する際の感情システムの役割、外部や他者との関わりの必要性、苦しみや悲しみから破綻の淵、退屈な状況、といったさまざまな状況と脳の認識と創造性との関連、いろいろな現象をリアルなものとして感じるクオリアをその時代や背景といった三人称的文脈でなく、一人称的文脈でとらえることの重要性、つかず離れずの外界との関わりが、ノイズや偶然の外界からの刺激を脳内のダイナミズムに適度に取り入れられ、創造的なものを生み出す契機となること、など、創造性と脳のかかわりやそのような脳ができてきた、自己組織化という自然の特性について語られている。

茂木さんは脳科学者の立場から本を多く書かれていて、少し興味はあったものの、なんか、テレビとか雑誌に良く出てくるような人は、大衆におもねっているような感じがして、これまで読もうとはしていなかったのだけど、最近時間的余裕があって、本を良く読むようになったのと、認識することや脳の働きに興味があって脳科学関係の本を読み出したのと、絵をみることとか美術鑑賞についての本とか読むうちに、美術鑑賞することを創造的行為としてとらえると、脳で認識するということ、特に感覚系から入って言語化されて意識で認識される過程にいたるまでの、無意識レベルの重要性などに興味が沸いてきたこともあって、先日の横浜美術館所蔵作品からの企画展の選者の一人であったり、脳と見ることや創造性に関する比較的一般向けの本を探すと茂木さんの本が多く、図書館でみかけたので借りて読んでみた。わりと読みやすく、感情が進化の過程で残った制御されるべきものや、選択の際の要素のひとつではなく、決断や判断といった脳の高次システムに強く関わっているという最近の脳科学の知見なども散見され、それなりに面白かったが、一般的な話に抑えられているため、少し物足りなかった。


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